投稿日: 2018年6月8日2019年7月2日 投稿者: suzukitoyomu法政大学 経営学会 経営志林 掲載論文:「組織の盛衰ーその数理モデル」(2016年7月号) 修正版 経営志林第53巻2号-遠田先生_20180420 🔥262
2022.2.11 組織の盛衰モデル概要(骨子) 1.関心の所在 ・変革しない組織が必ず衰退するのはなぜか ・経営学の成果として組織が成長するための方策が色々と示されている(ポジショニング、RBV、ケイパビリティ、イノベーション、アントレプレナーシップ、非PDCA型アクション、組織文化、等)が、「こういうこともある」ではなく、「これで全て」という「包括的なモデル」がないと実務においてどの場面で有効か分かりにくい ・「組織の盛衰モデル-その数理モデル」 (遠田雄志、法政大学経営学会『経営思林』第53巻第2号、2016年7月、以下「組織の盛衰モデル」)は、このような「包括的なモデル」を志向する唯一のモデルではないが、組織の主観的な考え方とそれに基づく行動および組織の有する資源の両方をモデルに組み込みその相互作用で組織の盛衰を説明しようとする点で包括的であり、経歴の異なる三人の実務家の関心を惹起している 2.組織の盛衰モデル・概要 (1)遠田雄志 ・組織の盛衰モデルはM.コーエン、J.マーチ、J.ホルセンのゴミ箱モデルやK.ワイクのセンスメーキング理論を日本に紹介した遠田雄志(1942-2019)が晩年に構築したモデル ・ワイクのモデルを発展させた組織の常識論と東日本大震災後の原子力問題や気候変動の問題化をきっかけとする組織の資源論とを統合してモデル化したもの(遠田は晩年、ほぼ失明状態であったため「組織の盛衰モデル-その数理モデル」(遠田、2016)以降、論文を発表していないが基本的な考え方は組織の盛衰モデルに網羅されている) (2) 「組織の盛衰モデル」の組織観 本モデルでは、組織における“「常識サイクル」と「資源サイクル」(そのイナクトメントと相互作用)”を問題にし、“組織は変わらなければならない”と考える。それは、“継続する組織は組織体制の連続体である”と、下図のように考えているからである。 組織体制Aは、常識Aを共有するメンバーで構成され、メンバーの欲求から生じる需要を満たすべく、常識Aによりイナクトされた資源(資源環境A)を利用する。常識Aと資源環境Aの相互作用により、常識Aがメンバーに信頼され、かつ資源環境Aがメンバーの需要を満たす限りにおいて組織体制Aは成長する。しかし、移ろいゆく世の中にあって、ある時点で構築された組織体制Aの常識Aは外部環境との間で乖離が生じメンバーの信頼を失い、また資源環境Aは高コスト化しメンバーの需要を満たすことができなくなり、組織体制Aは衰退/衰亡する。組織は、常識Aと資源環境Aで成立する組織体制Aから、新たな常識Bと資源環境Bで成立する組織体制Bへと転換することでのみ継続することが可能となる。この転換がなされない場合、組織は衰退ではなく衰亡、すなわち消滅することになる。かくして、組織は変わらなければならないのである。本モデルでは、この組織の盛衰のダイナミズムを、以下のように説明する。 (3)概念 ・組織の盛衰は組織の有する常識と資源の成長・衰退サイクルの相互作用によって生じ、かつこれのみによって生じる (+は正の相関、マイナスは負の相関を表す) ・常識と資源の成長・衰退サイクルは常に同調しているとは限らないため、両者の位相のずれのパターンにより組織の盛衰ルートは8つに限定される 盛衰状況 特異点 リード コメント ルート 衰退 (資源) 技術革新 先導(F) “技術革新”による傾向的成長へ転換 1 後導(B) “常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 2 (常識) 常識の更新 後導(B) “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続 3 先導(F) “常識の更新”による傾向的成長へ転換 4 成長 (資源) クリティカル資源 先導(F) “クリティカル資源”による傾向的衰退へ転換 5 後導(B) “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 6 (常識) 常識の劣化 後導(B) “資源の慣性力”による傾向的成長の継続 7 先導(F) “常識の劣化”による傾向的衰退へ転換 8 先導(F)=先行して特異点を超えた資源又は常識の牽引力により、残る側と同調し特異点を超える場合 後導(B)=資源又は常識の一方が特異点を超えたが、残る側の慣性力に引き戻されて同調し、特異点を超えない場合 ・これら8つのルートを経由して先導(F)の場合組織は成長(1,4)と衰退(5,8)を繰り返し(スプライン曲線)、後導(B)の場合には組織の消滅(2,3)あるいは無限の拡大(6,7)により組織は衰亡する 3.今後の課題 ・常識の更新、技術革新のプロセス・実現方法の研究(先行研究に学ぶべき分野) ・リードタイムにおける組織経営のあり方、先導(F)、後導(B)の事例・プロセス分析 ・組織の状況(成長・衰退プロセスのどこにあるか)の診断ツール開発 ・既存の経営理論・盛衰モデルなどとの関連についての考察 etc 以 上 別紙 【組織の盛衰ルートの具体例の考察】 ・以下では、DXによるビジネスモデル転換・ディスラプションという常識の更新・劣化(常識サイクル)と、組織内部での人、資金といった資源のクリティカル資源化・技術革新(資源サイクル)を例に組織の盛衰ルートの現れ方を考察した。 ・なお、「先」は先行して発生した特異点、「後」は遅れて発生した特異点または特異点とならなかった慣性力の内容(後記「(参考)」参照)。また太字はリードしている側を表す。 ルート 盛衰状況 コメント 具体例 1 (衰退) 業容拡大の結果、人手が不足して事業拡大ペースが鈍化、ビジネスモデル的にも競合に劣後。 “技術革新”による傾向的成長へ転換 ITを活用した効率化により人員不足を克服。さらに人手に頼らないビジネスモデルを構築、オンラインの顧客利便性が認められ事業拡大。 (先:技術革新…IT活用による効率化) (後:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行) 2 “常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 効率化のためのITインフラを導入するが、顧客接点は人手で行うべきとの考え方から労働を強化してビジネス拡大を企図した結果、離職者増加。さらに過労死発生によりブラック企業のイメージ定着から採用も進まず、事業縮小。 (先:技術革新…IT活用による効率化) (後:常識の慣性力…顧客接点は人手で確保すべき) 3 “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続 ITを活用した人手に頼らないビジネスモデルを構築することにより人員不足を克服を企図したが、新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材を確保できず従来型ビジネスを継続し事業縮小。 (先:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行) (後:資源の慣性力…人員不足) 4 “常識の更新”による傾向的成長へ転換 ITを活用した人手に頼らないビジネスモデルを構築することにより人員不足を克服を企図した新戦略を公表。これが好感され、新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材の採用が進み、ビジネスモデルの転換が実現し事業拡大。 (先:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行) (後:技術革新…新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材の拡大) 5 (成長) 既存ビジネス頭打ちを踏まえ、新たなPFビジネス構築を企図。既存ビジネスでの資本蓄積も生かしてM&Aも実施し新PFビジネスが成長。 “クリティカル資源”による傾向的衰退へ転換 グローバル・プラットフォーマーの国内市場参入によりサービス品質の競争激化。必要なIT開発資金・人員が急増についていけず競合比劣後、ビジネスモデル陳腐化により事業縮小。 (先:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足) (後:常識の劣化…ビジネスモデル陳腐化) 6 “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 グローバル・プラットフォーマーの国内市場参入によりサービス品質の競争激化。超金融緩和を背景に急増するIT開発資金を調達。高水準の給与、調達した資金でのM&Aにより人員も確保し競合優位を維持、事業拡大。 (先:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足) (後:常識の慣性力…既存PFビジネス継続) 7 “資源の慣性力”による傾向的成長の継続 ブロックチェーン技術を活用した低コストの新たなPFが出現したが、その時点では既存PFの高速大量処理の優位性が継続し既存PFに大規模なIT開発費用、人員の投入を継続し事業拡大。 (先:常識の劣化…新技術によるPFの出現) (後:資源の慣性力…IT開発資金・人員投入) 8 “常識の劣化”による傾向的衰退へ転換 ブロックチェーン技術を活用した低コストの新たなPFの出現により、既存PFが陳腐化。ブロックチェーン技術を活用した同種のPF構築を企図するが、既存PF開発人員では技術のミスマッチが生じており、新技術者の採用も進まず、既存PFビジネス継続を余儀なくされ、事業縮小。 (先:常識の劣化…新技術によるPFの出現) (後:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足) (参考)「先」と「後」 ルート 先(すべて特異点) 後 リード 傾向 1 技術革新 常識の更新(特異点) F 傾向的成長 2 技術革新 常識の慣性力 B 傾向的衰退 3 常識の更新 資源の慣性力 B 傾向的衰退 4 常識の更新 技術革新(特異点) F 傾向的成長 5 クリティカル資源発生 常識の劣化(特異点) F 傾向的衰退 6 クリティカル資源発生 常識の慣性力 B 傾向的成長 7 常識の劣化 資源の慣性力 B 傾向的成長 8 常識の劣化 クリティカル資源発生(特異点) F 傾向的衰退 返信する
遠田モデル:組織の盛衰~その数理モデル第九版原文: 論文 2018/03/03 組織の盛衰―その数理モデル(第9版要約版―理論編) 法政大学 遠田 雄志 Ⅰ.組織とは 1.組織の常識と資源環境 “組織”(organization)O は、最も広義において、何らかのまとまりのある集合である。 組織にまとまりをもたらすのは、組織の“常識”(common sense)cs である。組織の常識は組織メンバーに共有されている認識と行動の安定した枠組みだからだ。 組織はまた、組織メンバーの欲求から生ずる“需要”(demand)d を満たすべく、資源を利用するが融通無碍という訳にはいかない。組織が自らの関わる環境、それに規定される“資源環境”(resource environment)re で資源を利用する。 組織の“常識”と“資源環境”とは相互に作用し合っている。例えば、鎖国や身分制を常識としていた江戸時代から開国や四民平等を常識とする近代日本は、それまでの閉鎖的な資源環境を一気に解放的な資源環境にした。他方、J.ワットの蒸気機関の改良を契機に新しく創出された資源環境は近代資本主義を常識とする社会をもたらした。 “組織”は相互作用している“常識”と“資源環境”とによって特徴づけられる。 2.組織体制 i 番目の常識 cs_i と資源環境 re_i によって特徴づけられる一時的な組織のあり方を i 番目の“組織体制”(organizational form)Of_i という。そして、 Of_i から Of_(i+1)、に変わることを“組織体制の転換”(trance formation of organizational form)という(例えば企業の転業や社会革命)。 これより、組織は O=∑Of_i (cs_i,re_i ) i=1,2,…,n ただし、 O:組織、 Of:組織体制、 cs:常識、 re:資源環境 と表現でき、組織は組織体制の連続体と考えることができる。本稿は、組織のマクロ(巨視的)理論である。それに対して、一つの組織体制を対象とする組織論はミクロ(微視的)組織論である。例のアベノミクスの発想は、遺憾ながらミクロ組織論の枠を超えられず、それゆえ思考のスパンが短期的で大局的観点が希薄である。 Ⅱ.資源サイクルと常識サイクル 組織の盛衰は、2つの要因すなわち組織体制の“常識”cs と“資源環境” re とに依存する、と仮定する。 2つの要因の“状況”(カール・ボパー『歴史主義の貧困』、240ページ)の推移は以下の通り。 1.資源環境について 本稿では組織一般を考察の対象としているので、資源とは最も根元的かつ抽象的に“物質”“エネルギー”“情報”とする(Cf. 立木教夫『現代科学のコスモロジー』1992年 164ページ)。 組織体制の需要を満たすために生産が行なわれる。そして、生産を調整、維持・管理するためには、資源が利用される。 物質とエネルギーは使われる度にその潤沢さが失われ、次第にそれらの調達と処理すなわち利用コストがアップしていく。情報に関しても利用されるにつれ高まってゆく必要多様性と、情報リテラシーゆえに情報コストがアップしていく。やがて、いずれかの資源が妥当なコストでは賄えなくなる(それを“クリティカル資源”という)。例えば、現代の先進諸国のクリティカル資源はエネルギーである。なぜならば原子力発電には途方もない危険というコストが伴っているからだ。“クリティカル資源”が出現すると、組織体制が現在かかわっている資源環境が無限ではなく、有限であることを気づかされ、人々は欲望を抑制し、そして需要も減少してゆく。 需要が長期的に減少するからといって、それ以降も生産活動は抑制されこそすれ続けられ、資源が引き続き利用される。 ともかく、最初すべての資源の利用コストが低廉だったのにいずれかの“資源”がクリティカルになったため、組織体制の資源環境 re はそれまで需要を増加させるいわば“低コスト状況”から需要を減少させるいわば“高コスト状況”に変化する。 需要の長期的増加に続く長期的減少の流れは不可逆的である。これにストップをかけ、新たに“低コスト状況”を創り出すのが“技術革新”である。例えば、再生エネルギーの技術開発、シェルガスの掘削技術開発、あるいはAI、量子コンピューターの実用化などがそれにあたろう。 要するに、“高コスト状況”ゆえの長期的需要萎縮、生産活動の抑制から再び需要増、そして生産を活性化させるには、“技術革新”が必要である。それによって、組織は再び“低コスト状況”となり、需要が増加する。 需要 d のこうした不可逆的推移は、“技術革新”を極小点、“クリティカル資源の出現”を極大点とする波形スプライン曲線、 d=r(t) (1) として表わされる。ここで、 d は“需要”を、t は“時間”を表わし、r はそれらの関係を規定する“資源関数”である。 2.常識について 組織体制のかかわる環境が変わりゆくのに対して、組織体制の常識は、例えばルールや習慣そして制度などに具現化されているように硬直的である。 そのため、双方の乖離は時間を経るにつれて大きくなる。常識外の現象が頻発するようになり、いわゆる“常識の劣化”が顕著になると常識の信頼性(common sense reliability)cr は減少していく。 この流れにストップをかけるのが“常識の更新”である。それによって、常識への信頼性が回復し、新たな常識の信頼性が増加していく。 しかし、この流れもやがて“常識の劣化”が明らかになると常識の信頼性 cr が減少していく・・・ 常識の信頼性 cr のこうした不可逆的な推移は“常識の更新”を極小点、“常識の劣化”を極大点とする波形スプライン曲線 cr=c(t) (2) として表わされる。ここで、cr は“常識の信頼性”、t は時間を表わし、c はそれらを関係づける“常識関数”である。 ところで、さらに、“需要”d は組織体制の“常識の信頼性”cr と比例関係にある、と考えられるから d=c(t) (3) と表わすことができる。ここに、それぞれ“資源サイクル”、“常識サイクル”とも言うべき d=r(t) (1) d=c(t) (3) がそろい、それらは共に波形スプライン曲線を描く。 Ⅲ.組織の盛衰 1.盛衰表 (1)、(3)より r^’ (t)>0 c^’ (t)>0 は需要 d の増加を r^’ (t)<0 c^' (t)<0 は需要 d の減少を意味する。ただし、関数記号右肩の′(ダッシュ)は一次微分関数を表す。 これより、2つのサイクルの位相のありうるすべての組み合わせは3つで、それぞれの意味は以下の通り。 (r^' (t)>0) ⋀ (c^’ (t)>0) はその期間共に需要が増大し、生産活動が活発なので良循環が形成され、組織体制は“傾向的成長”(long term growth)Grw をする。 なお ⋀ はandを表わす。 反対に (r^’ (t)<0) ⋀ (c^' (t)<0) はその期間需要が減少し、生産活動が抑制されるという悪循環が形成され、組織体制は“傾向的衰退”(long term decline)Dcl をする(最近エコノミストの間で言われている“セキュラースタクネーション(長期停滞)”の一因は、深刻な“需要”の委縮にある、とのこと(柴山桂太「大恐慌後に起こる長期停滞」『週刊エコノミスト』2014年10月21日号、48~49ページ)。 以上の2つの同調以外の r^' (t) × c^' (t)<0 はその期間生産活動の良循環も悪循環も形成されず、組織体制は一時的な成長、衰退を繰り返す。換言すれば、この期間は傾向的成長あるいは傾向的衰退へのリードタイムである。 リードタイムは、位相のズレた2つのサイクルがいずれかのサイクルの位相に同調するまでの期間である。ありうるすべてのリードの仕方は、以下の2つである。 (1) 変化した要因の牽引力が、未変化の要因の変化をリードする、いわば先導(forward lead)F で、それまでの成長であれ衰退であれ、傾向を変える。 (2) 未変化の要因の慣性力が他の要因の変化を妨げる、いわば後導(backward lead)B で、それまでの成長であれ衰退であれ、傾向を持続させる。 ところで、組織の盛衰にとって有意味な特異点は、傾向的衰退 Dcl における“資源サイクル”と“常識サイクル”のそれぞれの極小点、および傾向的成長 Grw におけるそれぞれの極大点の2×2=4つがすべてである。他方、リードタイム中の“同調”には“先導”F か“後導”B しかない。 以上のことから、組織体制の盛衰のありうるすべてのルートは(2×2)×2の8で、それらを網羅したいわば“盛衰表”は表1として掲げられている。 この“盛衰表”は組織体制の盛衰のありうるすべてのルートを尽くしており、その盛衰はこれらのいずれかをたどる。 組織は組織体制の連続体であるから、組織の盛衰の歴史はこの盛衰表のいずれかのルートのリレーとして表せる。 盛衰表 盛衰 特異点 位相のズレ リード 盛衰とコメント ルート Dcl r^' (t)=0 技術革新 r^' (t)>0 c^’ (t)<0 F B Grw I:“技術革新”による傾向的成長へ転換 Dcl 2^*:“常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 1 2 Dcl 常識の更新 c^' (t)=0 r^' (t)<0 c^' (t)>0 B F Dcl 1^* : “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続 Grw II : “常識の更新”による傾向的成長へ転換 3 4 Grw r'(t)=0 クリティカル資源 r^’ (t)<0 c^' (t)>0 F B Dcl 1: “クリティカル資源”による傾向的衰退へ変化 Grw II^* : “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 5 6 Grw 常識の劣化 c^’ (t)=0 r^’ (t)>0 c^’ (t)<0 B F Grw I^* : “資源の慣性力”による傾向的成長の継続 Dcl 2 : “常識の劣化”による傾向的衰退へ変化 7 8 なお、数字右肩の“*”は同調が後導Bによることを示す 。また、“転換”とは新しい組織体制への“変化”である。 さらに言うならば、盛衰表の“盛衰とコメント”欄の2つのローマ数字Ⅰ、Ⅱと2つのアラビア数字1、2とそれらの右肩に添えた“*”の計8つの数記号の列で組織の盛衰の歴史を簡便に表現できる。 2.組織の再生と衰亡 組織は組織体制の連続体である。 盛衰する組織体制が途切れることなく新たな組織体制に転換して、組織を連続させることを組織の“再生”という。そうでないとき、組織は“衰亡”する。 最後に、この再生と衰亡の問題を“盛衰表”を用いて解いてみよう。 なお、R1、R2・・・はルート1、ルート2・・・を表わし、⋀と⋁ はそれぞれandとorを意味する。 まず、再生について (R5 ⋁ R8) ⋀ (R1 ⋁ R4) が成り立つと、現在の組織体制は一旦傾向的衰退へ変化し(R5 ⋁ R8)、その後新しい常識または資源環境が創られ、再び傾向的成長へ転換し(R1 ⋁ R4)、組織は再生する。 次に、衰亡について 組織の衰亡は、組織再生の否定であるから、ド・モルガンの法則より、それは、 (R2 ⋁ R3) ⋁ (R6 ⋁ R7) である。 前項(R2 ⋁ R3)は、傾向的衰退の継続による組織の衰亡を意味し、後項(R6 ⋁ R7) は傾向的成長の継続による組織の衰亡を意味する。換言すれば、すべての後導は「死に至る病」なのである。 返信する
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3月16日に再度集合して詰めます。
2022.2.11
組織の盛衰モデル概要(骨子)
1.関心の所在
・変革しない組織が必ず衰退するのはなぜか
・経営学の成果として組織が成長するための方策が色々と示されている(ポジショニング、RBV、ケイパビリティ、イノベーション、アントレプレナーシップ、非PDCA型アクション、組織文化、等)が、「こういうこともある」ではなく、「これで全て」という「包括的なモデル」がないと実務においてどの場面で有効か分かりにくい
・「組織の盛衰モデル-その数理モデル」 (遠田雄志、法政大学経営学会『経営思林』第53巻第2号、2016年7月、以下「組織の盛衰モデル」)は、このような「包括的なモデル」を志向する唯一のモデルではないが、組織の主観的な考え方とそれに基づく行動および組織の有する資源の両方をモデルに組み込みその相互作用で組織の盛衰を説明しようとする点で包括的であり、経歴の異なる三人の実務家の関心を惹起している
2.組織の盛衰モデル・概要
(1)遠田雄志
・組織の盛衰モデルはM.コーエン、J.マーチ、J.ホルセンのゴミ箱モデルやK.ワイクのセンスメーキング理論を日本に紹介した遠田雄志(1942-2019)が晩年に構築したモデル
・ワイクのモデルを発展させた組織の常識論と東日本大震災後の原子力問題や気候変動の問題化をきっかけとする組織の資源論とを統合してモデル化したもの(遠田は晩年、ほぼ失明状態であったため「組織の盛衰モデル-その数理モデル」(遠田、2016)以降、論文を発表していないが基本的な考え方は組織の盛衰モデルに網羅されている)
(2) 「組織の盛衰モデル」の組織観
本モデルでは、組織における“「常識サイクル」と「資源サイクル」(そのイナクトメントと相互作用)”を問題にし、“組織は変わらなければならない”と考える。それは、“継続する組織は組織体制の連続体である”と、下図のように考えているからである。
組織体制Aは、常識Aを共有するメンバーで構成され、メンバーの欲求から生じる需要を満たすべく、常識Aによりイナクトされた資源(資源環境A)を利用する。常識Aと資源環境Aの相互作用により、常識Aがメンバーに信頼され、かつ資源環境Aがメンバーの需要を満たす限りにおいて組織体制Aは成長する。しかし、移ろいゆく世の中にあって、ある時点で構築された組織体制Aの常識Aは外部環境との間で乖離が生じメンバーの信頼を失い、また資源環境Aは高コスト化しメンバーの需要を満たすことができなくなり、組織体制Aは衰退/衰亡する。組織は、常識Aと資源環境Aで成立する組織体制Aから、新たな常識Bと資源環境Bで成立する組織体制Bへと転換することでのみ継続することが可能となる。この転換がなされない場合、組織は衰退ではなく衰亡、すなわち消滅することになる。かくして、組織は変わらなければならないのである。本モデルでは、この組織の盛衰のダイナミズムを、以下のように説明する。
(3)概念
・組織の盛衰は組織の有する常識と資源の成長・衰退サイクルの相互作用によって生じ、かつこれのみによって生じる
(+は正の相関、マイナスは負の相関を表す)
・常識と資源の成長・衰退サイクルは常に同調しているとは限らないため、両者の位相のずれのパターンにより組織の盛衰ルートは8つに限定される
盛衰状況 特異点 リード コメント ルート
衰退 (資源)
技術革新 先導(F) “技術革新”による傾向的成長へ転換 1
後導(B) “常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 2
(常識)
常識の更新 後導(B) “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続 3
先導(F) “常識の更新”による傾向的成長へ転換 4
成長 (資源)
クリティカル資源 先導(F) “クリティカル資源”による傾向的衰退へ転換 5
後導(B) “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 6
(常識)
常識の劣化 後導(B) “資源の慣性力”による傾向的成長の継続 7
先導(F) “常識の劣化”による傾向的衰退へ転換 8
先導(F)=先行して特異点を超えた資源又は常識の牽引力により、残る側と同調し特異点を超える場合
後導(B)=資源又は常識の一方が特異点を超えたが、残る側の慣性力に引き戻されて同調し、特異点を超えない場合
・これら8つのルートを経由して先導(F)の場合組織は成長(1,4)と衰退(5,8)を繰り返し(スプライン曲線)、後導(B)の場合には組織の消滅(2,3)あるいは無限の拡大(6,7)により組織は衰亡する
3.今後の課題
・常識の更新、技術革新のプロセス・実現方法の研究(先行研究に学ぶべき分野)
・リードタイムにおける組織経営のあり方、先導(F)、後導(B)の事例・プロセス分析
・組織の状況(成長・衰退プロセスのどこにあるか)の診断ツール開発
・既存の経営理論・盛衰モデルなどとの関連についての考察
etc
以 上
別紙
【組織の盛衰ルートの具体例の考察】
・以下では、DXによるビジネスモデル転換・ディスラプションという常識の更新・劣化(常識サイクル)と、組織内部での人、資金といった資源のクリティカル資源化・技術革新(資源サイクル)を例に組織の盛衰ルートの現れ方を考察した。
・なお、「先」は先行して発生した特異点、「後」は遅れて発生した特異点または特異点とならなかった慣性力の内容(後記「(参考)」参照)。また太字はリードしている側を表す。
ルート 盛衰状況 コメント 具体例
1 (衰退)
業容拡大の結果、人手が不足して事業拡大ペースが鈍化、ビジネスモデル的にも競合に劣後。 “技術革新”による傾向的成長へ転換 ITを活用した効率化により人員不足を克服。さらに人手に頼らないビジネスモデルを構築、オンラインの顧客利便性が認められ事業拡大。
(先:技術革新…IT活用による効率化)
(後:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行)
2 “常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 効率化のためのITインフラを導入するが、顧客接点は人手で行うべきとの考え方から労働を強化してビジネス拡大を企図した結果、離職者増加。さらに過労死発生によりブラック企業のイメージ定着から採用も進まず、事業縮小。
(先:技術革新…IT活用による効率化)
(後:常識の慣性力…顧客接点は人手で確保すべき)
3 “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続 ITを活用した人手に頼らないビジネスモデルを構築することにより人員不足を克服を企図したが、新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材を確保できず従来型ビジネスを継続し事業縮小。
(先:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行)
(後:資源の慣性力…人員不足)
4 “常識の更新”による傾向的成長へ転換 ITを活用した人手に頼らないビジネスモデルを構築することにより人員不足を克服を企図した新戦略を公表。これが好感され、新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材の採用が進み、ビジネスモデルの転換が実現し事業拡大。
(先:常識の更新…人手による顧客接点からオンラインでの顧客接点への移行)
(後:技術革新…新ビジネスモデル構築、IT開発に必要な人材の拡大)
5 (成長)
既存ビジネス頭打ちを踏まえ、新たなPFビジネス構築を企図。既存ビジネスでの資本蓄積も生かしてM&Aも実施し新PFビジネスが成長。 “クリティカル資源”による傾向的衰退へ転換 グローバル・プラットフォーマーの国内市場参入によりサービス品質の競争激化。必要なIT開発資金・人員が急増についていけず競合比劣後、ビジネスモデル陳腐化により事業縮小。
(先:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足)
(後:常識の劣化…ビジネスモデル陳腐化)
6 “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 グローバル・プラットフォーマーの国内市場参入によりサービス品質の競争激化。超金融緩和を背景に急増するIT開発資金を調達。高水準の給与、調達した資金でのM&Aにより人員も確保し競合優位を維持、事業拡大。
(先:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足)
(後:常識の慣性力…既存PFビジネス継続)
7 “資源の慣性力”による傾向的成長の継続 ブロックチェーン技術を活用した低コストの新たなPFが出現したが、その時点では既存PFの高速大量処理の優位性が継続し既存PFに大規模なIT開発費用、人員の投入を継続し事業拡大。
(先:常識の劣化…新技術によるPFの出現)
(後:資源の慣性力…IT開発資金・人員投入)
8 “常識の劣化”による傾向的衰退へ転換 ブロックチェーン技術を活用した低コストの新たなPFの出現により、既存PFが陳腐化。ブロックチェーン技術を活用した同種のPF構築を企図するが、既存PF開発人員では技術のミスマッチが生じており、新技術者の採用も進まず、既存PFビジネス継続を余儀なくされ、事業縮小。
(先:常識の劣化…新技術によるPFの出現)
(後:クリティカル資源発生…IT開発資金・人員不足)
(参考)「先」と「後」
ルート 先(すべて特異点) 後 リード 傾向
1 技術革新 常識の更新(特異点) F 傾向的成長
2 技術革新 常識の慣性力 B 傾向的衰退
3 常識の更新 資源の慣性力 B 傾向的衰退
4 常識の更新 技術革新(特異点) F 傾向的成長
5 クリティカル資源発生 常識の劣化(特異点) F 傾向的衰退
6 クリティカル資源発生 常識の慣性力 B 傾向的成長
7 常識の劣化 資源の慣性力 B 傾向的成長
8 常識の劣化 クリティカル資源発生(特異点) F 傾向的衰退
遠田モデル:組織の盛衰~その数理モデル第九版原文:
論文
2018/03/03
組織の盛衰―その数理モデル(第9版要約版―理論編)
法政大学 遠田 雄志
Ⅰ.組織とは
1.組織の常識と資源環境
“組織”(organization)O は、最も広義において、何らかのまとまりのある集合である。
組織にまとまりをもたらすのは、組織の“常識”(common sense)cs である。組織の常識は組織メンバーに共有されている認識と行動の安定した枠組みだからだ。
組織はまた、組織メンバーの欲求から生ずる“需要”(demand)d を満たすべく、資源を利用するが融通無碍という訳にはいかない。組織が自らの関わる環境、それに規定される“資源環境”(resource environment)re で資源を利用する。
組織の“常識”と“資源環境”とは相互に作用し合っている。例えば、鎖国や身分制を常識としていた江戸時代から開国や四民平等を常識とする近代日本は、それまでの閉鎖的な資源環境を一気に解放的な資源環境にした。他方、J.ワットの蒸気機関の改良を契機に新しく創出された資源環境は近代資本主義を常識とする社会をもたらした。
“組織”は相互作用している“常識”と“資源環境”とによって特徴づけられる。
2.組織体制
i 番目の常識 cs_i と資源環境 re_i によって特徴づけられる一時的な組織のあり方を i 番目の“組織体制”(organizational form)Of_i という。そして、 Of_i から Of_(i+1)、に変わることを“組織体制の転換”(trance formation of organizational form)という(例えば企業の転業や社会革命)。
これより、組織は
O=∑Of_i (cs_i,re_i ) i=1,2,…,n
ただし、 O:組織、 Of:組織体制、 cs:常識、 re:資源環境
と表現でき、組織は組織体制の連続体と考えることができる。本稿は、組織のマクロ(巨視的)理論である。それに対して、一つの組織体制を対象とする組織論はミクロ(微視的)組織論である。例のアベノミクスの発想は、遺憾ながらミクロ組織論の枠を超えられず、それゆえ思考のスパンが短期的で大局的観点が希薄である。
Ⅱ.資源サイクルと常識サイクル
組織の盛衰は、2つの要因すなわち組織体制の“常識”cs と“資源環境” re とに依存する、と仮定する。 2つの要因の“状況”(カール・ボパー『歴史主義の貧困』、240ページ)の推移は以下の通り。
1.資源環境について
本稿では組織一般を考察の対象としているので、資源とは最も根元的かつ抽象的に“物質”“エネルギー”“情報”とする(Cf. 立木教夫『現代科学のコスモロジー』1992年 164ページ)。
組織体制の需要を満たすために生産が行なわれる。そして、生産を調整、維持・管理するためには、資源が利用される。
物質とエネルギーは使われる度にその潤沢さが失われ、次第にそれらの調達と処理すなわち利用コストがアップしていく。情報に関しても利用されるにつれ高まってゆく必要多様性と、情報リテラシーゆえに情報コストがアップしていく。やがて、いずれかの資源が妥当なコストでは賄えなくなる(それを“クリティカル資源”という)。例えば、現代の先進諸国のクリティカル資源はエネルギーである。なぜならば原子力発電には途方もない危険というコストが伴っているからだ。“クリティカル資源”が出現すると、組織体制が現在かかわっている資源環境が無限ではなく、有限であることを気づかされ、人々は欲望を抑制し、そして需要も減少してゆく。
需要が長期的に減少するからといって、それ以降も生産活動は抑制されこそすれ続けられ、資源が引き続き利用される。
ともかく、最初すべての資源の利用コストが低廉だったのにいずれかの“資源”がクリティカルになったため、組織体制の資源環境 re はそれまで需要を増加させるいわば“低コスト状況”から需要を減少させるいわば“高コスト状況”に変化する。
需要の長期的増加に続く長期的減少の流れは不可逆的である。これにストップをかけ、新たに“低コスト状況”を創り出すのが“技術革新”である。例えば、再生エネルギーの技術開発、シェルガスの掘削技術開発、あるいはAI、量子コンピューターの実用化などがそれにあたろう。
要するに、“高コスト状況”ゆえの長期的需要萎縮、生産活動の抑制から再び需要増、そして生産を活性化させるには、“技術革新”が必要である。それによって、組織は再び“低コスト状況”となり、需要が増加する。
需要 d のこうした不可逆的推移は、“技術革新”を極小点、“クリティカル資源の出現”を極大点とする波形スプライン曲線、
d=r(t) (1)
として表わされる。ここで、 d は“需要”を、t は“時間”を表わし、r はそれらの関係を規定する“資源関数”である。
2.常識について
組織体制のかかわる環境が変わりゆくのに対して、組織体制の常識は、例えばルールや習慣そして制度などに具現化されているように硬直的である。
そのため、双方の乖離は時間を経るにつれて大きくなる。常識外の現象が頻発するようになり、いわゆる“常識の劣化”が顕著になると常識の信頼性(common sense reliability)cr は減少していく。
この流れにストップをかけるのが“常識の更新”である。それによって、常識への信頼性が回復し、新たな常識の信頼性が増加していく。
しかし、この流れもやがて“常識の劣化”が明らかになると常識の信頼性 cr が減少していく・・・
常識の信頼性 cr のこうした不可逆的な推移は“常識の更新”を極小点、“常識の劣化”を極大点とする波形スプライン曲線
cr=c(t) (2)
として表わされる。ここで、cr は“常識の信頼性”、t は時間を表わし、c はそれらを関係づける“常識関数”である。
ところで、さらに、“需要”d は組織体制の“常識の信頼性”cr と比例関係にある、と考えられるから
d=c(t) (3)
と表わすことができる。ここに、それぞれ“資源サイクル”、“常識サイクル”とも言うべき
d=r(t) (1)
d=c(t) (3)
がそろい、それらは共に波形スプライン曲線を描く。
Ⅲ.組織の盛衰
1.盛衰表
(1)、(3)より
r^’ (t)>0
c^’ (t)>0
は需要 d の増加を
r^’ (t)<0
c^' (t)<0
は需要 d の減少を意味する。ただし、関数記号右肩の′(ダッシュ)は一次微分関数を表す。
これより、2つのサイクルの位相のありうるすべての組み合わせは3つで、それぞれの意味は以下の通り。
(r^' (t)>0) ⋀ (c^’ (t)>0)
はその期間共に需要が増大し、生産活動が活発なので良循環が形成され、組織体制は“傾向的成長”(long term growth)Grw をする。
なお ⋀ はandを表わす。
反対に
(r^’ (t)<0) ⋀ (c^' (t)<0)
はその期間需要が減少し、生産活動が抑制されるという悪循環が形成され、組織体制は“傾向的衰退”(long term decline)Dcl をする(最近エコノミストの間で言われている“セキュラースタクネーション(長期停滞)”の一因は、深刻な“需要”の委縮にある、とのこと(柴山桂太「大恐慌後に起こる長期停滞」『週刊エコノミスト』2014年10月21日号、48~49ページ)。
以上の2つの同調以外の
r^' (t) × c^' (t)<0
はその期間生産活動の良循環も悪循環も形成されず、組織体制は一時的な成長、衰退を繰り返す。換言すれば、この期間は傾向的成長あるいは傾向的衰退へのリードタイムである。
リードタイムは、位相のズレた2つのサイクルがいずれかのサイクルの位相に同調するまでの期間である。ありうるすべてのリードの仕方は、以下の2つである。
(1) 変化した要因の牽引力が、未変化の要因の変化をリードする、いわば先導(forward lead)F で、それまでの成長であれ衰退であれ、傾向を変える。
(2) 未変化の要因の慣性力が他の要因の変化を妨げる、いわば後導(backward lead)B で、それまでの成長であれ衰退であれ、傾向を持続させる。
ところで、組織の盛衰にとって有意味な特異点は、傾向的衰退 Dcl における“資源サイクル”と“常識サイクル”のそれぞれの極小点、および傾向的成長 Grw におけるそれぞれの極大点の2×2=4つがすべてである。他方、リードタイム中の“同調”には“先導”F か“後導”B しかない。
以上のことから、組織体制の盛衰のありうるすべてのルートは(2×2)×2の8で、それらを網羅したいわば“盛衰表”は表1として掲げられている。
この“盛衰表”は組織体制の盛衰のありうるすべてのルートを尽くしており、その盛衰はこれらのいずれかをたどる。
組織は組織体制の連続体であるから、組織の盛衰の歴史はこの盛衰表のいずれかのルートのリレーとして表せる。
盛衰表
盛衰 特異点 位相のズレ リード 盛衰とコメント ルート
Dcl r^' (t)=0
技術革新 r^' (t)>0
c^’ (t)<0 F
B Grw I:“技術革新”による傾向的成長へ転換
Dcl 2^*:“常識の慣性力”による傾向的衰退の継続 1
2
Dcl 常識の更新
c^' (t)=0 r^' (t)<0
c^' (t)>0 B
F Dcl 1^* : “資源の慣性力”による傾向的衰退の継続
Grw II : “常識の更新”による傾向的成長へ転換 3
4
Grw r'(t)=0
クリティカル資源 r^’ (t)<0
c^' (t)>0 F
B Dcl 1: “クリティカル資源”による傾向的衰退へ変化
Grw II^* : “常識の慣性力”による傾向的成長の継続 5
6
Grw 常識の劣化
c^’ (t)=0 r^’ (t)>0
c^’ (t)<0 B
F Grw I^* : “資源の慣性力”による傾向的成長の継続
Dcl 2 : “常識の劣化”による傾向的衰退へ変化 7
8
なお、数字右肩の“*”は同調が後導Bによることを示す 。また、“転換”とは新しい組織体制への“変化”である。
さらに言うならば、盛衰表の“盛衰とコメント”欄の2つのローマ数字Ⅰ、Ⅱと2つのアラビア数字1、2とそれらの右肩に添えた“*”の計8つの数記号の列で組織の盛衰の歴史を簡便に表現できる。
2.組織の再生と衰亡
組織は組織体制の連続体である。
盛衰する組織体制が途切れることなく新たな組織体制に転換して、組織を連続させることを組織の“再生”という。そうでないとき、組織は“衰亡”する。
最後に、この再生と衰亡の問題を“盛衰表”を用いて解いてみよう。
なお、R1、R2・・・はルート1、ルート2・・・を表わし、⋀と⋁ はそれぞれandとorを意味する。
まず、再生について
(R5 ⋁ R8) ⋀ (R1 ⋁ R4)
が成り立つと、現在の組織体制は一旦傾向的衰退へ変化し(R5 ⋁ R8)、その後新しい常識または資源環境が創られ、再び傾向的成長へ転換し(R1 ⋁ R4)、組織は再生する。
次に、衰亡について
組織の衰亡は、組織再生の否定であるから、ド・モルガンの法則より、それは、
(R2 ⋁ R3) ⋁ (R6 ⋁ R7)
である。
前項(R2 ⋁ R3)は、傾向的衰退の継続による組織の衰亡を意味し、後項(R6 ⋁ R7) は傾向的成長の継続による組織の衰亡を意味する。換言すれば、すべての後導は「死に至る病」なのである。
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